2020/06/16 17:34



詩集 「新しい夜」から 幾つかの詩をお載せします。

「新しい夜Ⅰ」「新しい夜Ⅱ」「オウル」「ライチョウ」「小さな望み」





詩「新しい夜 Ⅰ」

私は生きていた
それを知っている
私は骨を数えることができた
遥か昔に彼らが形を還したことを知っている
見上げると月を見ていた
風は通り抜けていく
それで十分
国道にはまだ友達が名を無くさず街灯の柱を掴み
私は彼らに対して
呼び掛けて受けとる
月は未だに居座り
その声は幻想で
その幻想をこの身体が顕す
それでよい
何物にも触れ
それを型どる余命というものは
退屈にもかかわらず
素敵な遊戯である




詩「新しい夜 Ⅱ」


心臓に任せている
押し寄せてくる昔の映像はきのうのことで
それがあるから自分の弱さや苦しさになっている
逃れるのは簡単なこと
しかしそれは刻印された言葉やあの視線に向き合うこと
なぜなら諦める使命は
いつの間にか染み付いてきたもので
死とは心臓の停止
記憶は肉体とともに火葬され
この感情や欲情はまた神秘に還るのか
それとも星だけの知る世界に預かるのか
それまでの道のりはくたくたになるだけでよいのかもしれない
可笑しなことと感じても
なにか特別な迎合に話を合わせて
頷いて粗末という言葉を焼き付かせるのが精一杯のようで
ある種の人々は人間と相容れなくなるようで
但し全てを包めるのがこの意識溢れる庭で
存分に違うものと交わればよい




詩「オウル」 



取り残されてしまった・・
歓待の中に居てもそこに交わりを思案し
待望していた姿が真実の生活だとは
途絶えれば見失う
けれど時を待たずして駆け抜けて衰退する
一日という空間の広大なこと
残していきたいことは取り残される生と消えていく死
夜中の明け方近くでなければ
新聞配達のバイクも聞こえず
終電間際の喧騒も聞こえないで
静寂と外気に冷たさを感じて
心象に対面できる
そこから次に動ける






詩「ライチョウ」



狩りを終えて巣に戻ると
雛がいなくなったようだ
森は透けている
一つの時間が
その時間のうちに終わろうとしているのだ
それは自ら落ちることはしないだろう
それはまた頑丈に巣を建て直した
険しい息吹が世界を駆け巡っている
それは恨むことを知らないだろう
それは諦めることも知らないだろう
私たちの選択した時間が
私たちが受け入れられない時間だとするなら
最初から時間は切り離せないのかもしれない
私たちがまだ私たちでいるなら
私たちのための時間が
私たちの中で過ぎていくのかもしれないが
私たちに襲い掛かる出来事は
私たちの結晶ともなるのだろう
そうして寄せ集めたガラクタが
やがて私達の巣箱になるのだろうか
だが私たちは落ちないと言い切れない
それが巣のなかに潜んでいるとしても
私達は巣を手放さない
なぜなら巣はガラクタでできたのだから
それごときに落とされるとは
誰も思いはしないだろう
ところが至る所に冷酷な風は吹いている
いつかこちらにも吹くのだろうか







詩「小さな望み」



何年間も欠けたまんまで
探しても見つからなくて
おれはもうわからなくて
あたしは裏切られるのにはもう沢山で
誰かを慕うのはもうできないと思っていた
だけどあなたに会って
あなたといることの嬉しさを知った
そんな形がコラーゲンのように
簡単に削られるなら
いっそこの時間を止めてほしいと
思ってしまった
そんな心配をよそに暦は移り変わり
大切にしたい人が魂の隣にいる
そんな時間がかけがえなくて
過去の痛ましい記憶は忘れていくかもしれない
今を書き足す新しい時間もそうかもしれない
けれど
あなたといることが生きる彩で
あなたの過去を聞いて
わたしの過去を委ねて
二人の時間から描いて
その絵で
お互いに支えられたらいいななんて
小さな望みを祈っている